□■夢電話■□

このごろ俺は変な夢ばかり見る。

ある晩。
チュルルルルルルルル・・・
俺の元へ電話が掛かってくる。
俺が電話に出ようと受話器を持ち上げようとすると、 なぜか受話器が持ち上がらない。
見た目はただの受話器なのに、 その重さと言ったら、新星爆発直前のぎゅうぎゅう詰めの
なんとかいう 物質を彷彿とさせるほど重い。

どんなにしても持ち上がらない。
俺が汗だくになり顔を真っ赤にして、必死の形相で受話器相手に格闘している
間中、電話はチュルルルルルルル・・・・チュルルルルルルルル・・・と鳴り続ける。
そのうち力尽きた俺は倒れる。
夢から覚めたら汗だくな上、疲れきっていた。


次の晩。
チュルルルルルルルルル・・・・チュルルルルルルルルル・・・・
またも電話が掛かってくる。
俺は昨日の夜の夢の事も忘れて、また電話に出ようと受話器を持ち上げる。
ところがまたしても受話器は持ち上がらない。
必死に格闘しているうちに、ふと既視感と言うか、前にもこんなことあったなぁ・・・なんて
朧げに思い出すが、尚も俺は受話器相手に格闘しつづける。


なぜ人は電話がなったら無視できずに受話器を取ろうと反射的で律儀な行動を 取るのか?
不思議だ。

そのうちひょいと何かの拍子に、あれ程重くてどうしようもなかった受話器が 持ち上がり、
俺は驚きながら耳にそれを当てる。

「もしもし?」
その途端、「間違えました」と言ってがしゃんと切れた。


次の次の晩。
チュルルルルルルルルル・・・・チュルルルルルルルルル・・・
また電話が掛かってきた。
そろそろ俺は何となく、「またかよ」と言う気分になる。
前の晩のことなどあまり覚えていないのだが、何となく不愉快だったような気がする。
今度は受話器がすっと取れた。
「もしもし?」
俺が出るといきなり、
「あなたのお掛けになった電話番号は現在使われておりません。もう一度お確かめの上、
お掛け直しくださいませ。・・・あなたのお掛けになった電話番号は現在・・・」
そんな機械音が流れてきた。
俺はいささか乱暴に受話器を置いた。

次の次の次の晩。
チュルルルルルルル・・・チュルルルルルルル・・・
俺はうんざりしながらも義務感で電話に出た。
何となく嫌な予感がする。
「もしもし?」
その途端、別れた元女房の声がつんざくように耳に突き刺さってきた。
「あなたねー!!どう言うつもり?!ここ何ヶ月も一円たりとも振り込んでないじゃない!!
こっちは子供を引き取って養育してるのよ!お金がかかってしょうがないのよ!
どう言うつもり?あんたなんて一人で気楽な身分でしょう!わずかな養育費くらい
ちゃんと払いなさいよ!」
などと言うわめき声に始まって、延々とヒステリックな怒り心頭に達した怒声が続く。
俺はほとんど聞いちゃいないが(受話器を腕一杯分伸ばして、聞いている)、
その一方で俺って養育費なんて払う義務あったっけ?向こうは金持ちと不倫して
再婚して、幸せに暮らしてるんだろう?何を言ってるんだろう・・・などと疑問で頭の中が
一杯になる。
そのうち子供がバカでどうしようもないのはあんたのせいよ!あんたに似たのよ!
顔もあなたに似てぶさいくだから誰にも好かれやしない!
来週月曜日までに振り込んでおかなかったら、ただじゃおかないわよ!
などと無意味で恐ろしげな事を言い出したので、俺は向こうが気づかないようにそうっと
受話器を本体に戻した。


次の次の次の次の晩。
チュルルルルルルルルル・・・チュルルルルルルルルル・・・
電話が鳴り出した。
どうせろくな事がない。
俺は放って置いた。出なかったらどうなるのか、見てみたい気もした。
30回を超えたくらいから、音が大きくなり始めた。
アパートの上下左右から、足を踏み鳴らしたりこぶしで壁を叩いたりのクレームが来だした。
それでも放って置いたら、40回目でいきなり電話がどっかあああああん
派手な音を立てて爆発した。
爆発の勢いで、玄関の木の扉がブチ破られ、俺は外に放り出された。
挙句、さび付いて歪んだ鉄製の階段を転げ落ちた。


次の次の次の次の次の晩。
チュルルルルルルルルル・・・チュルルルルルルルルル・・・
電話が鳴り出した。
昨日の晩のように周りに迷惑をかけてはいけない、などと夢の中であることも忘れて
俺はくそまじめに電話に出た。
「・・・・・・・・はぁはぁ・・・・・・・・はぁはぁ・・・・」
奇妙な息遣いが聞こえる。
どうしたんだろうか。誰か死にかけの知り合いでも、俺に苦境を知らせる為に
電話をかけてきたんだろうか。もしそれだったら誰だろう。
俺は背中がゾクリとした。
「もしもし?!もしもしっ?!」俺の声は切羽詰っていたかもしれない。
「はぁ・・・はぁ・・・・はぁ・・・」
「どうしたんですか?!大丈夫ですか?!」
「はぁ・・・はぁはぁ・・・はぁ・・・」
「どなたですか?!」
ほとんど涙声である。電話の向こうには、強盗に殺されかけて血塗れになった
知人か誰かの姿が見えるような気がする。

「はぁはぁ・・・はぁ・・・・・・オタク・・・パンツ何色なの・・・?」

その途端、俺は叩きつけるように受話器を置いた。というか投げ捨てた。


次の次の次の次の次の次の晩。
チュルルルルルルルルル・・・チュルルルルルルルルル・・・
また電話の夢だ。俺はいい加減うんざりしていた。
これ以上毎晩この怪っ態な電話の夢が続いたらノイローゼになるかもしれない。
そう思ったが、仕方なしに電話に出た。
「もしもし?」
「あのね、康彦さん。米田さんが亡くなったわ。・・・長い事闘病なさってたでしょ。
どうしても帰ってこれないの?あなた米田さんのお葬式にも出ないつもり?随分よくして
貰ったじゃないの。・・・あたくしに会いたくないのね。・・・米田さんのご病気はあなたの
呪いかもしれない、って思うことがあったわ。違う?あたくしが・・・あの方に・・・あなたの
大親友だったあの方に・・・でももう過去の話のはずよ?あたくしには会ってくださらなくても
いいわ。でも米田さんにはお線香上げに来るだけでも来て上げて。そして・・・仲直りして欲しいの。
お願いよ・・・でないとあたくし・・・あたくしは魔性の女。悪女よ。でもあの方は・・・」
「すみません?あの僕康彦じゃないんですけど。掛け間違えてませんか?」
その途端、電話が向こうでガチャンと切れた。
俺もガチャンと受話器を戻した。
なんてこった。・・・他人事の話なのに妙に重い気分になった。

次の次の次の次の次の次の次の晩。
俺は眠りに入り、夢を見だした途端電話を探した。
クリーム色の変な形の電話だ。
ついでに呼び出し音も変だ。
電話は程なく見つかった。見つけた途端、電話が鳴り出す前に
俺は大急ぎで電話線を引っこ抜き、電話をブッ壊した。
その日は電話は掛かってこなかった。
次の日も夢に電話は出てこなかった。
その次の日も夢に電話は出てこなかった。
その次の次の日も・・・・。

俺はそのうち電話の夢を忘れた。
そしてある晩俺は夢を見た。
トントン、トントン、トントン、
ドアをノックする音が聞こえた。

終わり。


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