終着駅


 

列車の窓の外は真っ暗だった。
僕はじっと動かず、木枠にひじをついて窓の外を眺めていた。
もう何時間そうしていたのだろうか?
やがて夜汽車は速度を落とし、ゆっくりと駅舎に入っていった。


無人駅なのか、深夜でもう駅員がいないのか、駅は人気が
あまりなく静かだった。僕が車掌に切符を渡して駅の改札を
出ると、ひんやり少し湿った夜の気配がした。
空には星がほとんど見えなかった。


夜にもいろいろあって、空気がざわざわとしてなんとなく
明るい夜もあれば、なぜか静まり返った暗い夜もあるように
思うのだが、僕は今夜はそんな、静かで真っ暗な夜であるような
気がした。


駅前は小さな広場になっていて、真ん中に水の出ていない
噴水があった。周りは花壇で、いろいろな花が咲いていたが、
よく見ると驚いたことに、茎が伸びたり縮んだり、黒味がかった
色のポピーのような花が咲いたり蕾んだりしているのだった。
噴水を囲んで、花たちは無言のダンスを踊っているようだった。


広場にあるたった一つしかない薄暗い街灯の光をもとに目を
凝らすと、少し向こうに"HOTEL"という薄暗くネオンが
光る、看板が見えた。
僕はかばんを持ち直すとそちらに向かって歩き出した。
この町は暗く、どことなく不安を掻き立てられるようで、
あのホテルに行けば安心できるような気がしたからだ。


ホテルは広場からはほんの10mくらいしか離れていない
ようだったのに、歩けど歩けどたどり着かないのだった。
まるで場所を変え、通りを移動しているかのようだった。
僕は疲れて眠たかった。
早くベッドにもぐりこんでぐっすりと眠りたかった。


道端を黒い猫が駆けていった。猫の目がきらっと光って見えた。

ずいぶん長くとぼとぼと歩いていた。僕はふと人の気配を感じた。
遠くから空気を振動させながら大勢の人のざわめきが聞こえて
くる。
だんだんそれが近づいてくるとそのざわめきは声ならぬ声、
すすり泣く声、衣ずれを含む足音、それらがごたまぜになって
響いてくるのだった。


立ち止まって耳をすませていると、いつの間にか僕の横に人が
立っていた。年齢も定かではないほど深くしわの刻まれた顔。
目は落ち窪んで瞳も見えないような老人だった。


やがて人々の行列が僕の目の前を通り過ぎた。顔も体もすっぽりと
灰色の布でくるんだ人たちだった。僕達には目もくれず進んで、
どこかに消えていく。おや?と目を留めるとその行列の中に
僕がいた。もう一人の僕は茫然とした顔で歩いていた。

僕はここにいるはずだ・・・。
「ここは列車事故に遭って自分が意識せぬ間に死んでしまった、
まだ死の自覚がない死者の町。列車と共にこの終着駅に運ばれて
来る。
死者の中には昇天できぬまま永劫に歩き続ける者もいる。
お前がどうしてここにいるのかわからぬ。行列に加わるがいい」

「あなたは?」
「わたしは時の老人・・・」
そう言うと老人はどこかへ行ってしまった。

僕は思い出した。
暖かく気持ちのいい日なのに、なぜか無性にむしゃくしゃしていた
僕は、荷物を一抱え持って下宿を飛び出し、列車に飛び乗った。
列車は何かに巻き込まれて強い光を浴びた。

そして気が付くと真っ暗な夜だった・・・。



終わり








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