じゅのん


一章 ナツコ

じん16歳。夏。   


夏休みに入るとすぐにテニス部の夏合宿があり、それが終わると
3年生はあまり練習に出てこなくてもいいことになっている。受験勉強で忙しくなるからだ。2年生のぼくは夏合宿を心待ちにしていた。どうしてもやりたいことがあったからだ。

 夏合宿でぼくは、ナツコ先輩に告白した。今考えると先輩は受験前でそれどころではない時なのに、そんな時に告白するなんて、よほど思いつめていたのだろうと思うのだけれど、なぜだかナツコ先輩はぼくの申し出をOKしてくれた。

 ぼくたちが付き合うことになったと言うニュースはすぐに皆に伝わり、夏合宿最後の夜のキャンプファイアーで、ぼくたちはすごい祝福を受けた。ビールではなくてジュースで乾杯、ナツコ先輩に自称失恋したと言うほかの男の先輩や、同級生たちに布団に生き埋めにされそうになったり、ナツコ先輩とキスをさせられそうになったり・・・今思い出してもにんまりするぐらい楽しい夏の思い出ができた。

 ぼくはそれから部活動が忙しいし、ナツコ先輩は勉強が忙しいし、それほどベタベタといつも一緒にいることはできなかったけれど、できる範囲でお茶をしにいったり、映画を見に行ったり、気持ちのいい広い公園に行って散歩してみたり・・・その間なにをしていたかというと、あまり覚えていないのだけれど、いつも二人でいろんなことをしゃべっていたような気がする。

 ナツコ先輩はいつも、大きな目をしたその顔を、ぼくのほうに向けてちゃんと話を聞いてくれていたし、彼女が話をするときも、いつもぼくのほうをじっと見ていた・・・そしてぼくはナツコ先輩のその顔から目を離すことができないのだった。

 ぼくはそれまでオクテで誰かに告白したこともなければ、たとえ誰かに告白されてもなんだか気乗りがしない、といった調子だったが、ナツコ先輩にかけては本当に真剣だった。告白するずっと前からずっとずっと本気で好きで、ぼくの目はテニスボールよりもまじめにナツコ先輩を追っていたのかもしれなかった。

 ぼくたちの関係はいつまでたってもそのままで、やがて春が来て、ナツコ先輩が受験から開放されるのをじっと待っているのが暗黙の了解になっているみたいだった。ぼくたちは冬が来ると、塾や図書館の前で待ち合わせをよくしたが、出てくる先輩を待ちながら、コンビニで買ってきたホットコーヒーをよく飲んだのを覚えている。

そして先輩が出てくると手をつないで温めあいながら先輩のうちに送っていく。なかなか別れがたくてあっちで立ち止まり、こっちで立ち止まり、止め処もなくおしゃべりしながらそろそろ母が心配してるからという先輩の一言があるまで、ぼくらはいっしょにいたのだった。


 

じん17歳。春。

 

先輩は努力した甲斐があって、無事に地元の女子大学に進学した。そしてぼくは3年生になった。

 ぼくがびっくりしたのは、6月を過ぎた頃から急に先輩がとてもきれいになってきたことだった。大学に入学すると、ほかの学生もそうだからと、ナツコ先輩は化粧をしていくようになったのだけれど、最初4月ぐらいはまだなんだか違和感があるというのか、あんまり化粧もうまくなかったように思う。それが初々しくて、まだ高校生っぽいところが残っていたような気がするのだが、入学して2ヶ月たった頃からひとかわむけたように、とても大人っぽくてきれいになっていった。

 ぼくはそんなナツコ先輩と会うとき、なんだかとてもまぶしかった。顔をマトモに見てないときもあるくらいだった。でもナツコ先輩は笑顔をいっぱいにたたえて、とても楽しそうにしていて、いろいろ励ましてくれたり、テニス部の様子を聞いてくれたり、そんなナツコ先輩と付き合っていると言うことが、ぼくにはとても誇らしくもあった。

 夏合宿を終えて引退したぼくは本格的に勉強に取り掛かることにしたが、あまりはかどらなかった。ぼくは親と相談して、来年一浪して勉強に専念し、そしてワンランク上の大学を狙うことにした。


 

じん18歳。春。

 

 ぼくは志望どおり?予備校生となって、友達らとまるで高校の延長のような生活を送っていた。もちろん以前よりは勉強をするようにはなっていたけれど。

 あるときぼくはふと気がついた。それは一浪して大学に入ったとしても、ナツコ先輩とは2学年も離れてしまっていることに。そうでなくても、ナツコ先輩はイキイキと、大学生活をエンジョイしている。勉強もまじめにしているみたいだし、共学の大学のヨット部に入って、免許を取ったりコンパに行ったり、もちろん海にセイリングに行ったり、アルバイトをしたり、ごく普通の学生生活を送っているのだろうけど、どんどん垢抜けてぼくの身近な存在ではなくなりつつある。それでも先輩は変わらずぼくとあってくれていたけれど、でもふと遠い目をしてなにか考え事をしているように思えるときもあった。

 春も終わりのよく晴れたある日、ぼくたちはしばらくぶりに出会った。ぼくたちはその日さっぱり話が弾まなかった。気持ちがどうも行き違い、なぜだかギクシャクしている、というぐあいだった。ぼくは話を弾ませようと最近の自分の失敗談などを面白おかしく話してみたが、話せば話すほどますます会話は暗くいらいらする方向に進んでいった。

 ふと沈黙が訪れた。少し間を置いて、いきなり先輩がしゃべり始めた。本当に身勝手なんだけど別れて欲しい。実はだいぶ前から付き合っている人がいて、絶望的なほど本気なのだという。相手はずいぶん年上でだからとても大人で、彼のことを考えるだけでもう気が狂いそうになるの。自分勝手だと思うけれど、これ以上やさしいあなたを裏切りつづけることにもう嫌になった。あなたはとても誠実でやさしくて・・・本当にいい人で。私はあなたのことは「大好き」。でも「恋愛感情」じゃないことに気がついたの。ごめんなさい。本当にごめんなさい。私がバカなの・・・。
 ぼくは呆然としていた。なにもかも全然気がついてなかったのだ。バカなのはぼくだ。先輩の変化も変心も気がつかなかったのだ。

 でも先輩の言いぐさはとても陳腐で平凡だった。先輩はぐしゃぐしゃに泣いていた。あまりに泣いているのでぼくはなんにもいえなかった。泣くことも話すこともできず、ただ・・・先輩のことをとても嫌なやつ、だと思った。とても腹が立った。ぼくは先輩が、ごめんなさいなんて言っているけど、本当はぼくの「やさしさ」とやらに付けこんで、その言葉をやたら連発することで、自分をかばおうとしているとしか思えなかった。一方的に泣きじゃくるなんて、ずるいと思った。

 それで、自分のプライドはとても傷がついたけれど、先輩のことはそれでもう、冷めてしまったのだった。いろいろ夢に描いていたことがあって、それらはついえてしまったので残念だったし、今までそんな先輩に一心に惚れていた自分がとても恥ずかしくて、そして一人になってさびしかったけれど、でもぼくはもう先輩には恋心は抱いていないのだった。

 

 

2章  じゅのん

 

じん22歳 春

 

 ぼくは夜、アパートに帰宅する。一人暮し向けのワンルームのアパートで、電気をつける前の部屋の中は真っ暗だが、熱帯魚の水槽がくっきりときれいに浮かび上がっている。食事を外で食べてくることもあるし、家で自分で作ることもある。と言っても、簡単なものに限るけど。そして風呂に入り、出てくるとのんびりとテレビを見ながらビールを飲んでくつろぐ。それから深夜になると、ぼくはパソコンの前に座るのだった。

 ぼくは夜な夜なネットサーフィンに明け暮れる。気に入っているホームページに行って書き込みをしたり、ただのぞいていたり。

 日中いろいろな人と会ったり話をしたり、とにかく仕事が忙しくて喧騒に満ちているからか、仕事が終わるとぼくはさっさと家に帰ってしまう。そして静かな部屋の中で、ただ無言で、出会いやコミュニケーションを求めているのだった。それはぼくにとっては心落ち着く、孤独で現実逃避的だけれど、とても楽しい時間のつぶし方なのだった。

 ぼくはある晩パソコンの前を離れた。それは最近のぼくにしては珍しいことだった。窓の外をなんとなく見たくなったのだ。窓の外は民家やらビルやらマンションやらが見えている。いい景色とはいえないけれど、いろいろな色の町の光を見つめているうちにふと、外に出たくなった。ぼくはウインドブレーカを羽織って、外に出ていった。

 まだ少しひんやりとして、湿り気を帯びた春の初めの空気はなんだか少しざわざわしていて、心地よかった。雑誌でも買ってみようか。たまにはパソコンから離れてみるのもいいかもしれない・・・ぼくはそんなことを思いながら駅前まで歩いていった。

 駅前のロータリーのあたりで少し人だかりがしているのでのぞいてみると、どこかのバンドが演奏をしていた。17歳ぐらいの少女が歌っていて、そして同年代らしい少年二人がギターとベースを弾いていた。結構人が集まっているのを見ると人気があるらしく、なかなかうまかった。ぼくには彼らの音楽がとても気持ちよくて、彼らを見える位置にある、近くのベンチに座って聴き惚れていた。

 どれくらい時間がたっただろうか?ぼくは考え事をしながら聴いていたみたいで、気がつくととっくに演奏は終わって、人々はもう三々五々散っていった後だった。あの少女の声・・・なんていうか、本当にきれいな声で、澄んで透明感があるというのか、よく通ると言うのか、ぼくはめちゃくちゃその歌声に惚れてしまった。

 そのときだった。上から女性の声が降ってきた。

「良かった?ずいぶん熱心に聴いてたみたいだけど」

上を見上げるとさっきのボーカルの女の子だった。

「え?」

「見かけない顔だから。たいがいは友達とかが多いんだけど、きょうはね、はじめてっぽい人がいて、最後まで聴いてくれてたでしょ?」

「ぼく?ああ・・・。うん、すごく良かった。君ってすっごくきれいな声をしてるんだね。

いつもここでやってるの?」

彼女の雰囲気がそうさせるのか、ぼくはいきなり話しかけられたと言うのに、結構気楽に答えていた。相手がずいぶん年下だったからかもしれない。

「そうだよ。週に一回、ここで。またくる?」

「たぶん・・・いやもちろん。ああ、ええっと・・・仕事でこられない日もあるかもしれないけど」

「そうなんだ。働いてるんだ。・・・ねえ、送ってくれない?近くなんだけど」

「え?」

「ああ、ツレはね、いいの。今からバイトに行くって言ってたから。いつもは彼らが送ってくれるんだけどね。今日はダメで。なんちゃってね。いつもは一人でちゃんと帰ってるよ、あたしは。そんなにマヌケじゃないから。でも、今日はなんとなく。良い?」

「あ、うん。いいけど」

「ありがとう」

ぼくは駅の反対側のすぐ近くだとか言う、彼女の家の前まで送っていった。本当にすぐだった。道すがら、彼女は話した。

「あのね、前に音楽の授業で先生が言ってたんだ。本当に良い音楽を聴いて、気持ちよくなったら脳からアルファ波っていういい脳波が出るんだって。あなた今日あたしの歌を聴きながら寝てたでしょ。あたしね、すっごくいい気持ちになってくれたんだな、ってちゃんとわかったわよ」ぼくは赤面した。

「みんな付き合いで来てくれてるのよね。歌うってとっても気持ちがいいの。せっかく来てくれてるんだからちゃんと歌わなきゃねって一生懸命ツレたちと練習して、一生懸命歌って、彼らに聴かせてるんだけど、どうもイマイチ反応がね、よくわかんないの。音楽ってね、そんなかしこまって理論ずくで聴くんじゃなくてからだと心で聴いたらいいんだと思うんだけど。とくにライブなんだからさ。だから寝てくれた人って初めて!あ、ここよ。どうもありがとう!」

 彼女は手を振って家の中に入っていった。ぼくは少し呆然としていたけれど、ここしばらくはなかったほど楽しい気分になっていた。

 ぼくは次の週もその次の週も熱心に通った。ぼくははじめて出会った次の週にバンドの名前がザジ(フランスの映画からきているそう)で、その女の子の名前がじゅのんだと聞きだした。なんだか彼女はそんな雰囲気だったので本当にぴったりだと思った。髪は真っ黒、まっすぐで、黒目がちな、大きな目と色白の肌とをその黒髪が縁取っていて、本当にとてもきれいだった。服装はみょうちきりんだったけど、たいがいは自分で作っていて、流行のブランドとかは買わない、と言っていた。

 何がどう気に入られたのか、ぼくは行ってライブが終わるたびに、じゅのんに頼まれて彼女を家に送っていった。彼女と過ごすほんの短いときがぼくにはとても楽しかった。たまに雨が降ってライブが中止になると、とてもさびしく感じた。

 

 

じん22歳 夏

 

 ぼくはライブが終わっていつものようにじゅのんを家に送っていっているときにふと訊いた。

「ねえ、ぼくのこと、どう思ってる?」

するとはっとしたようにじゅのんの顔色が変わった。じゅのんはいつもよりずっと小さな低い声で答えた。

「すきよ」

「ほんとに?」

「ほんとよ」

「じゃぁ・・・こんど、ぼくと、あの、ライブじゃないときに会ってくれない?」

「え?・・・いいわよ」彼女はなんだか躊躇しているように見えた。

ぼくはふと昔の記憶がよみがえった。ちょっと嫌な予感がしてまた訊いた。

「あの、ほかに誰か付き合ってる人いるの?」

「ううん、いないわ」

「じゃあ、会ってくれるよね」

「うん・・・」

何か釈然としないものを感じながらもぼくは彼女と約束を取り付け、そして携帯の番号を紙に書いて渡して、そして帰途についた。彼女は何か悲しそうな困ったような顔をしているような気がした。彼女のその困惑したような気分は伝染し、ぼくもなんだかすっかり落ち込んでしまった。初デートだと言うのに、全然嬉しい気持ちになれない。彼女は本当に会ってくれるだろうか?彼女は本当にぼくのこと、好きだろうか?

 ぼくはその晩からデートの日まで、毎晩なんだかよく眠れなかった。

 

デートの日。ぼくは重たい気分で家を出た。じゅのん。ぼくのことを好きだと言いながら冴えない表情をしていたじゅのん。なぜ?・・・だがとりあえずぼくは待ち合わせの場所に行った。場所は渋谷駅前、ありきたりだけどハチ公前。前からどうしても見たかった映画を見て、どこか公園を散歩する、というのがその日のぼくのプランだった。その映画も、この前じゅのんはOKだと言ってくれたのだ。

待ち合わせの時間は11時。じゅのんはなかなかこなかった。11時半を過ぎてもこない。やっぱりこないのか・・・。そのときぼくの携帯にメールが入った。

「じゅのんです・・・今日は会えません。ゴメンナサイ」

ええ?!バカな!ぼくは心臓が苦しくなるくらいバクバクするのを感じた。なぜ?じゅのん?

「ぼくは会いたい。なぜ?」ぼくはすぐに返信した。

「ゴメンナサイ。じんのせいじゃないの」しばらくしてまた返事が返ってきた。

「今どこ?」

返事はなかった。ぼくはなんとなく周りを見渡した。うんと遠くまで見渡した。どこかにじゅのんがいて、困りきっているような気がした。ぼくは歩き出した。渋谷駅は人探しをするには果てしなく広く、人も多い。ぼくはしばらくあちこちきょろきょろしながらうろついたけどわからない。しだいにあせりだしたそのときだった。ぼくは目の端でふと、見なれた姿を見かけたような気がした。そちらを振り向くと、その影はさっと走り出した。じゅのんだ!だが彼女まではかなりの距離がある。ぼくも走り出した。

「じゅのん、待って!」

彼女はそのとき信号が青だった横断歩道を渡り、人ごみに紛れ込んでしまった。ぼくがその横断歩道に追いつく頃には赤に変わり、ぼくはいらいらしながら次の青に変わるのを待った。青に変わるや否やぼくは走り出し、もうちょっとで突っ込んできたバイクにぶつかりそうになり、怒鳴られながらそれをよけ、人人人人・・・の中をかき分け押しのけ、よろけながらじゅのんの姿を追って走りつづけた。じゅのんの姿は遠くて、点のように見えた。そして次にまた信号で引っかかったらきっともう、見失うだろうな、とぼくは漠然と思った。

 そのとき、じゅのんの姿が見えなくなった。どこか建物に入ったのかも?ぼくはとても悲しい気分だった。なぜ逃げつづけるんだ、じゅのん? それでもぼくは走りつづけた。時々怪訝そうな顔をして見る人もあった。そりゃそうだろう。真夏の炎天下、あせびっしょりになった青年が人を押しのけながら走っていくのだもの。きっとすごい顔をしていただろう。でもぼくは周りを気にしなかった。ただじゅのんに会いたいだけだった。

 しばらく走っていると、歩道の脇に座りこんでいるじゅのんがいた。

「あ!」ぼくは少し叫んで立ち止まった。はあはあと息切れ状態だったけど、じゅのんのところまで行って、じゅのんと同じ目線の高さになるように、ぼくも座った。じゅのんは泣いていた。

「なぜ?どうしたの?」

ぼくは自分の呼吸が整うと、じゅのんが立ちあがるのに手をさしのべた。じゅのんは素直に従った。

「あっちに行こう。公園があるから」

ぼくはじゅのんの手をつないで歩き出した。じゅのんはうつむきながらもついてくる。公園につくとぼくはジュースを買ってじゅのんに渡した。

「あっちのベンチに行こうか?」

じゅのんはうなずいた。

ベンチに座ってぼくたちはジュースを飲んだ。しばらくして落ち着いたとき、ぼくは聞いた。

「あのね、じゅのん。なにかあるのなら話してくれないか?ぼくは君に会いたかった。君はぼくのことを好きだと言ってくれたけど、でも会ってくれようとはしなかった。なぜ?」

じゅのんはしばらく黙って何か考えているようだったけど、やがてポツリポツリと話し始めた。

「怖かったの。あたし、あなたの前にも何人か付き合ったことはあるけど、あんまり今までうまく行かなくて・・・。それは、相手をそれほど好きじゃないけど、なんとなく付き合ってたからだと思う。友達に見せびらかしたかったり誰かと付き合ってないと不安だったり・・・でもそんなんじゃうまくいく訳ないよね。で、なんていうか・・・とても傷つくことがあったの。でもそれは自業自得、って言う感じで、しょうがないかったんだよね。だからそれはいんだけど・・・。 

 あたし、本当にじんのことが好きなの。ずっとずっと好きだったの。だから今度はうんとうんと本気で誠意をこめてつきあいたいって思ったんだけど、それはそうすれば今までとは違って、うまくいくんじゃないかな?と思ったからなの。でもあなたもそれほどあたしのことを思ってくれているか、自信が持てなくて・・・。それにあなたは大人だし、あたしは子供みたいだし、つりあうかどうかも自信が持てなくて」

あの歌っているときのじゅのんとは大違いで、いまのじゅのんはずいぶん疲れて打ちひしがれているように見えた。ぼくは今までなかったくらい、やさしい気持ちになった。じゅのんの歌を聴いているときよりももっともっと・・・。

 ぼくはじゅのんは抱き寄せた。じゅのんの体がはっとしたように硬くなった。

「じゅのん・・・じゅのん・・・自信を持って・・・。ぼくも今まで自分の恋愛とか、自信をもったことなんてないよ。でもぼくもじゅのんのこと大好きだよ。これからもずっとずっと大好きだよ。じゅのんのこと大事にする。本当だよ。じゅのんもじゅのんの歌も本当に大好きだよ」

ぼくのTシャツが温かい涙が濡れた。

「今日のじゅのんは泣き虫だよね。でももう、泣かないで、ね?ぼくと付き合ってくれる?」

じゅのんがうなずいた。

「映画見に行かない?」

またじゅのんがうなずいた。

「行く」

やったあ!ぼくはじゅのんとまた手をつなぎ、そして公園を出て映画館のほうに歩いていった。よかった、じゅのんに会えて本当によかった・・・。

終わり♪



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