新世紀へようこそ 098/戦争を止める力

アメリカとイギリスが戦争を始めて2週間が過ぎました。

燃えるバグダッドを見るのはショックでしたし、知っている地名が次々に爆撃の対象として、
あるいは地上戦の場としてニュースに出てくる。見ているのも辛いことです。

ナシリヤのあの市場、ナジャフの大きなモスク、モスルの大学、ヒラのホテルで結婚式を
挙げていた若い二人、会った人々の顔が浮かびます。

みんな無事でいてほしいと願いますが、すでに多くの犠牲者が出ています。日常生活ならば
放火でさえ犯罪なのに、あれだけ都市を大規模に破壊し、人をたくさん殺して、それを得意げに
記者会見で発表する。

戦争というのはなんと異常な事態でしょう。

個人的な思いとは別に、戦争になってからこれだけ日がたつと、戦況についてもいろいろな
ことを考えます。

まず、明らかになったのは、攻撃する側のあまりの無知と愚かさです。

ペルシャ湾の側から上陸した米軍は、民衆が歓迎してくれないので落胆したと言いました。
サダム・フセインの圧制から自分たちを解放してくれてありがとうと、イラクの民衆が星条旗を振って
迎えることを期待していたらしい。

前線の兵士ばかりか国防総省までそう考えていたとしたら、彼らはいったいどういう情報を
もとに開戦に踏み切ったのか。

イラク国内の雰囲気について、自分たちに都合のよい幻想を抱いていたのでしょうか。
その幻想に頼って、大量の爆弾とミサイルを落とし、たくさんの人を殺しているのでしょうか。

いきなり大規模な爆撃を浴びせて相手の戦意を奪う「衝撃と畏怖」作戦にしても、意図とは
逆にイラクの人々の強い反発を呼び覚まして戦意を高揚させる可能性が多分にあった。
そちらはまるで考えていなかった。中東の歴史も人の心理もぜんぜんわかっていないらしい。

砂嵐はあそこでは毎年起こっている自然現象です。それが作戦計画に織り込まれていたとしても、
結果的には砂漠の自然を見くびっていたことになる。

いずれにしてもイラクを知らないまま、無理な戦争を始めてしまった。

これはもう構造的な無知という印象です。

こういう分析をしながら、そんな無知と傲慢のためにイラク人が死んでゆく事態を嘆かないでは
いられません。

日本ではデモは無力だという声も聞きます。

しかし、デモをはじめとする平和アピールには力があります。開戦は止められなかったけれど、
戦争を早く終わらせるのに、デモは効果的です。

どこの国でも政府はデモではなかなか動かない。しかしメディアは動きます。

今、フランスやイギリスはじめ各国のメディアがバグダッドに残って報道を続けています。

なぜ彼らが危険を承知で残っているかといえば、人々がニュースを求めているからです。
カタールの英米軍司令部のゆがんだ発表ではなく、本当に現地で起こっていることが知りたい。

湾岸戦争の時より技術力が格段に増したアラブ圏のメディアの威力も大きい(例えばカタールの
アル・ジャジーラというテレビ局)。

何十万もの人がデモに参加すれば、人々の強い関心がそこにあるとメディアは気づきます。
報道に対する使命感が湧いて、現地からのレポートに力が入る。彼らを支えているのは人々の関心であり、
それはデモによって表明されたものです。

侵攻した側にとってはとてもやりにくい戦争になります。

レバノンのアル・ミナールというテレビ局の取材陣が、イラクの砂漠の中でアメリカ兵40名ほどの
死体を発見したというニュースがインターネットで伝えられました。

現場は大規模な戦闘があった模様だけれど、イラク側の兵士の死体はないし、負傷兵はいない。
そちらは搬出されたらしいのです。

スタッフは衛星電話で本部にこのことを報告。本部はアメリカ軍に連絡を取りました。

すぐにアメリカ軍のヘリコプターが来て、取材陣のカメラや機材を破壊し、このことは誰にも
言うなと脅しました。

本部に戻ってみたら、そちらにもアメリカの憲兵が来ていて、機材を壊し、すぐにイラクから
出ていけと言った。

この一例からだけでも、彼らがいかにメディアを恐れているかよくわかります。

つまり、デモによって関心を表明するのはそれだけの効果があるのです。

それとはまた別の反戦の意思表示として、アメリカ製品のボイコットが話題に上がってきました。

最初にボイコットを言ったのはアメリカ側です。フランスのワインは飲まないと公言して地面に流したり、
フレンチ・フライをフリーダム・フライと呼ぶと言ったり、どうも感情が先走っている。

フランスから貰った「自由の女神」像は返すのでしょうか。アメリカ独立を支えたフランスの民権思想は
否定するのでしょうか。

反戦のためアメリカ製品のボイコットを提案する人々はもう少し真剣です。本当に不買運動でアメリカに
圧力をかけたいと思っている。

しかし、今、どこの国の市場にもアメリカ製品はあふれています。全部をボイコットするのは容易では
ないでしょう。

それに、アメリカ人がみなイラク侵攻に賛成しているわけではない。

アメリカ国内の反戦派は最も果敢に意思表示をしています。アメリカ全体をまとめて敵視してはいけない。

ではアメリカの主戦派だけに効果のあるボイコットはできないか。

買ってはいけない商品を選び出せばいい。選択の基準は、ブッシュ政権に献金している企業の製品は
買わない、ということです。

主旨は明快であり、目標が少ない分だけ集中的な効果がある。

言ってみればこれは、商品を選んで買うという日常的な行動を通じての投票です。

例えば、 Peace Choice というサイトを見てください。
http://www.peace-choice.net/index_jpn.html 
(このページは日本語です。)

実際にはすべてを拒むのはむずかしい。

一つでも買わないのは効果があるとぼくは考えます。

その一方で、企業にメールや葉書を出してなぜ買わないかを伝えることも大事です。

Peace Choice が優れているのは、買うべきでない商品のリストの横に、それに代わる商品のリストも
挙げていることです。

ブッシュ政権に献金していない企業の名を見てゆくと、グローバルよりもローカル、資源浪費よりは
資源維持という一つの流れが見えます。

イラクの戦争は世界経済ぜんたいの動向を反映しています。グローバリズムはどうしても侵略を伴う。

武力行使をしながら、戦後の復興計画で儲けることを計画する姿勢とグローバリズムの間には
似たものがあります。

復興の援助ばかり言う日本政府の姿勢は偽善そのものです。

世界ぜんたいで不買運動が高まれば、これらの企業はブッシュ政権への献金を止めるか、あるいは
停戦に向けて圧力をかけるでしょう。

前回の「097 戦争が始まった」の中で大きなミスをしました。

「人道的介入」について書いている部分、「旧ユーゴスラビアの内戦の時はこの理由によって国連軍が
武力を行使しました」と書いたのは誤りで、あの時に武力を用いたのはアメリカを主力とするNATO軍でした。
国連安全保障理事会の決議なしで行われた武力行使でした。

前にも書きましたが、「人道的介入」はまだ手順ではなく理念であり、非常にむずかしい、危険な試みです。

これまで、多くの戦争や武力行使がこれに似た理由で開始されています。しかし本当に成功した
「人道的介入」はまだありません。

ある国の中でアウシュビッツのようなことが行われていると明らかになった時、他国は武力をもって
介入できるか。そこまで遡って真剣に考えなければならない課題です。

旧ユーゴスラビア内戦の際のNATO軍の武力介入は、あの時点で虐殺が行われていたことが根拠と
なりましたが、実際には虐殺は両側にあった。その一方だけに荷担したことは問題であり、また武力行使後の
処理も中途半端に終わってしまった。

結果として事を解決するには至りませんでした。

        (池澤夏樹 2003−04−04)


*上記ピースチョイスのサイトについて*
こちらでクリックしたところ、該当サイトは削除された模様?
検索して見たら以下urlに変更されたようです。ご参考までに見ていただけたらと思います。

http://www.3chan.net/~peacechoice/

*カフェインパラから訂正が出ました*
コラム内urlを以下urlに訂正します。

http://www.peace-choice.net/



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