ヒカル


輝は一人っ子で、学校から帰ると家人は誰もいない事が多い。
母親は仕事の都合で別居しており、父も仕事が忙しく夜も帰りが遅い。
輝は家に帰ると、洗濯物を取り込み、夕食材料宅配サービスが届けた食材を使って
父親のと二人分、夕食の用意をする。一応掃除機もかけるし風呂の用意もする。
困ったことは、家が同級生らの溜まり場にされていることだ。
高校生にもなると共働きの家庭も多く、放任されている少年達は多いが、
輝の家のように、兄弟もいないし、夕方になると家族がだんだんそろって
にぎやかになる、と言うこともないとなると好都合だ。
ゲームをしたりジュースを飲んだり、やりたい放題になる。
部屋の中は何となく汗臭い体臭だの煙草の煙だので臭くなるし、
後片付けは結局輝の為す所となるので、迷惑以外の何物でもないのだが、
輝には断る事ができない。
断る事で孤独になるのが怖いからだ。

ある一時までは、自分の家で友達らとこうやって馬鹿騒ぎしたり
駄弁ったりする事が結構楽しかったし、まぁ普通の高校生ってこんなもんだと
思って何も考えていなかった。
だがあるときふと、自分は全然楽しくないような気がした。
ただ利用されているだけではないかと思ってから、苦痛で仕方がなくなった。
それでも文句も何も言えなくて。
それだけ自分は孤独で誰にも頼れない人間なのかと思うと情けなくてしょうがない。
それでもだらだらと何も改善しようとしないまま、少年は毎日を過ごす。

その日は金曜日で、父親が出張で帰ってこないと言うことで、
放課後クラスの友達が5、6人泊まりに来ていた。
コンビニで買い込んだビールだの缶チューハイやスナック菓子だのを広げて、
いつものようにみんなで馬鹿騒ぎしていた。
輝は窓際のカーテンの下で、虚ろに他の少年達の騒ぎを見ていた。
それほど飲めないので、ビールの一缶すら持て余して。
上の空の輝は先ほどから外から聞こえる音が気になってしょうがなかった。
なんだろう・・・

ギーコ・・・ギーコ・・・ギーコ・・・ギーコ・・・
金属的な音。
そうだ。

輝の家の横には子供向けの小さな公園がある。
水のみ場とベンチが二つと、ブランコ、これだけしかない。
以前は夜になると輝くらいの少年達が溜まったりしていたのだが、
近所に住む町内のエライサンの要請で、外灯が撤去されたら来なくなった。
夜の真っ暗な公園は薄気味が悪い。

その真っ暗な公園から聞こえる、ブランコを漕ぐ音。
なんで・・・?
あんな真っ暗な公園で誰がブランコなんか。
それももう何時間もだ。
薄気味悪いしその単調な音がなぜか輝の神経を逆なでする。イライラしてくる。

「どうしたよ、輝。なんか暗い顔して黙り込んじゃって。悪酔いしたか?」
隣に座っていた少年が訊ねる。
「あー・・・そうじゃなくて、なんか外からブランコの音が聞こえるんだ」
「それがどうしたよ。ブランコ乗る奴くらいいるだろ。夜だってさ」
「そうだよ。ラブラブのカップルがいるのかもしれないぜー。覗いてみる?」
くすくす笑う声。

「だって隣の公園、真っ暗でさ、普通は誰も来ないよ。だから何でだろうって」
「今日はたまたま来る奴がいたんだろ。それとも何か、輝?公園の怪談ってやつ?」
爆笑が起きた。
「高校生にもなってお化けがいるとか信じてる訳ー?」
なんて言って笑ってる奴もいる。

「そうじゃなくてさ。ちょっと気になっただけだよ」
「そんなに気になるんなら見に行こうぜー。みんなで見に行けば平気だろう?」
「そうそう、一丁見に行ってみようぜ」

ゾロゾロと連れ立って、騒々しく隣の公園に行ってみて、そこで見たものは。

小さな子供がひとり、ブランコを漕いでいた。
小学校3年生くらい?

「こんな夜遅くに何やってんのー?」
一人が声をかけると、怯えたように少年が顔を上げた。
「プチ家出か?でもお子様はこんな遅くまで出てたらダメなんじゃないの?」
普段大してまじめでもない奴らが、こんな説教臭いことを子供に垂れているなんて、
ちゃんちゃら可笑しい。
普段誰からも賞賛される事も感謝される事もない少年達が自分よりも年下の人間に
対して少し感じるばかげた優越感。

「俺達が送っていってやるからさ、ちゃんと家に帰ろうぜ?
寒くなるしさ、親も心配してるよ?」
「ブランコも漕ぎすぎると気持ち悪くなるぜ」
口々に言うが、その子供は黙っている。

「何か言ってよ。俺達怖い?」
子供はかぶりを振った。
「しゃべれないの?」
またかぶりを振る。
「ちょっと待ってやったら?みんなでまくしたててもきっと
言いにくいんじゃないの」
「そっか」

少年達は少し黙って待った。
子供が何か言い出すのを。

「わからないんだ。自分の名前とか家とか。忘れちゃったみたいなん・・・だ・・・」
子供がしばらく経って唐突にしゃべりだした。
最後の方は涙混じりになって。


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